佐久間町に入るとすぐに大きなトンネルが出現した。
岩をくりぬいたようなトンネルだったので、今から思えばいつも住んでいる所から見てかなり珍しく、
すごいトンネルだったはずなのだが、その時点では既にいくつもの非常識的なトンネルばかり抜けてきたので
もうそのようなことを考える状況ではなかった。
そのようなトンネルを2つ3つ抜けると下り坂になって、何日ぶりかに見たようにも思える懐かしい街並みが見えてきた。
下り坂が終わると佐久間町の中心地らしきところに来たようだった。
しかし、着いたはいいが、ここからどう行けばいいのか分からない。
地図の向きがなかなか難しくて分からないので、アシスタントと管理人の意見が相反したのだ。
こういうときは人に聞く。それしかない。
途中で出会ったオバサンに聞いてみた。
管理人「すみません。ちょっと聞きたいんですけど。」
オバサン「はい?」
管理人「ここから天竜市のほうへ行くにはどの道を行けばいいんでしょうか?」
オバサン「えっと、そこをこう行って、あそこで・・・・・(略)」
管理人「ああ、そうですか。どうもありがとうございます。」
オバサン「こんな山の中にどこから来たの?」
管理人「えー、(喬木村など知るはずもないと思い)長野の方からです。」
オバサン「長野~!?自転車で?」
管理人「はい、まあ。」
オバサン「頑張ってね。」
あまり覚えてはいないがそんな感じだったはずだ。
つまるところ、アシスタントの意見が正しかったのだ。
それから、オバサンに教えてもらった道を行く。
やがて、地図どおりに「佐久間駅」に着いた。
さらに進んでいくと龍山村の看板が見えてきた。
ここで「大輪橋」という橋を渡った。
そこからはひたすらに距離との戦いだった。
国道を通っているので、それなりに車が通っている、その脇を通るのだ。
やや危険だったのかもしれない。→参照
その道をどれだけ走ったか分からない。
「次に○○が見えたら休憩」などと決めて、ただ我武者羅に走り続けた。
さて、そうこうしているうちに「秋葉ダム」にやってきた。
ここのダムでは湖底にたまった土砂を運び出すトラックがたくさんいた。
それの影響か、ここがまたビミョーな道で、車だけが通れるような、なんともいえない道だったのだ。
ややループ状になっていたその道を越えるとすぐに「秋葉トンネル」が見えてきた。
このトンネルは人生で最悪のトンネルだったはずだ。
別に造りが雑で今すぐに壊れそうだ、という類ではない。
臭い、臭い、とにかく臭いのだ。
原因はダムから出てくるトラック。
引っ切り無しに通るそれらのトラックから排出される排気ガスによって、
トンネル内には異様な空気が立ち込めていたのだ。
歩道はある。
しかし、ここに突入する勇気はない。
トンネル前で長さを確認した。
約700m。
かなり頑張ればチャリでも時速40kmは出る。
それで計算すると・・・1秒あたりおよそ11m、700m走るには63秒。助走も含めて80秒程度。
これは息が続かない。
地図をよ~く見ると、どうやら迂回路があるようだ。
左を見ると確かにあった・・・しかし、どう見ても上り坂。こんなところは嫌だ。
それならトンネルに突っ込むしかない。
管理人・アシスタント、共に意を決した。
管理人はチャリの後ろのテールランプをつけた。
そして突っ込む。
案外楽な気分だった。いや、排気ガスの作用かもしれない。
俺たちは本当にこのトンネルから脱出できるのだろうか・・・
そんなことを考えていたら、あっさりとトンネルを抜けた。
迷っていた数分前の自分たちがバカらしく思えたほど楽だった。
どうやらこのトンネルで天竜市に入ったようだ。
そこから先に進むともうひとつのトンネルがあったが、もはや躊躇はしなかった。
そのトンネルの後にあった、「横山橋」というのを渡って、また天竜川の東岸に来た。
更にまっすぐに行くと、どうやら道の駅があるらしい。看板があった。
「天竜相津花桃の里」という所だ。休憩場所にはもってこいだ。
頑張って看板からそこまでの距離を走り抜き、ようやく着いた。
チャリを止めて少し長い休憩にした。
トイレに寄って、道の駅の内部に入ってみる。
今までにある程度の数の道の駅を見てきた管理人からすると、「やや小さめサイズ」だった。
チャリの見張りと交代で見に行っていたので、そろそろ戻るか、と思って帰ろうとすると、
一つのダンボールに目がとまった。
覗き込んでみると何とビックリ!喬木村イチゴ狩りのパンフレットが1枚だけだが入っていたのだ。
持って帰ろうかとも思ったが、何せ1枚しかないもので、それを持ってくるのも気が引けたのでやめた。
アシスタントにその旨を伝え、二人ともビックリした後、アシスタントが内部を見に行き、帰ることとなった。
そこでまた議論になった。
地図上ではこの道の駅の裏手から伸びている「夢の架け橋」を通っていくと、
後に国道と合流するのだが、国道を通っていったほうが確実だ。
しかし、橋の方へ行ってもみたい。
最終的に、橋の方へ行くこととなった。
橋を渡っていると、湖(川?)に浮いて遊んでいるヤカラがいた。
橋の後のことは良く覚えていないが、少し上って下ったと思う。
下った後に「伊砂橋」を渡って、国道がトンネルから出たところで合流した。
そのトンネルが最後に見たトンネルだった。
天竜川を左手に、国道のやや広い歩道を軽く上っていった。
船明ダムというダムの付近を過ぎると、平野っぽくなってきた。
後ろを遠く振り返ると、今まで下ってきた山々が見えた。
なんか寂しさを感じた。山から離れるというのは田舎人にとっては寂しいことらしい。
天竜川としばし分かれ、今いるのは天竜市の中心市街地。
本当に久しぶりの都会だった(ここでの「都会」の基準は飯田市である)。
そんな都会もすぐに終わった。
天竜川に注ぐ二俣川の橋を渡ると、また迷いだしたのだ。
地図を見ずに進んだのが原因だったようだ。
ここで長らく付き合ってきた国道152号線とはお別れだ。
天竜浜名湖鉄道の二俣本町駅と天竜二俣駅の間の線路を越え、
その踏切近くの印刷所らしき建物の前で止まった。
(後の調べにより、金属加工会社の東海進研という会社と判明した。)
目の前に天竜川があったからだ。これではおかしいのだ。
分からないときは人に聞くしかない。
そこでその東海進研の社員の方に伺うことにした。
ちょうどで出てきたところに話しかけてみる。なぜかいつも話しかけるのは管理人の役割だ。
管理人「あの~、すみません。」
社員「はい?」
管理人「ここから竜洋町へ行くにはどうしたらいいんでしょう?」
社員「竜洋町ならそこの踏切を渡って、右へ曲がって・・・・(略)」
管理人「分かりました。有難うございます。」
社員「いえいえ。」
休憩を取っているとフレンドリーな社員の方が話しかけてきた。
社員「どこから来たの?」
管理人「長野のほうです。」
社員「長野!そりゃまた・・・」
フレンドリーだったので持っている地図を見せた。
管理人「ここからこうやってきたんです。」
社員「へぇ~。」
(その後の会話略)
そんな感じで会話が続き、休憩が終わったところで別れた。
この時点での時刻はおよそ14:30。
急がなくてはならない。このままでは夜になってしまう。
言われたとおりに行くと、長い橋が見えてきた。「飛龍大橋」だ。
しかしその橋は渡ってはいけない。
その先、少し天竜浜名湖鉄道に沿って走った。ここで豊岡村(現在は磐田市)に入る。
この時点ではまだ体力がある。
そう、その時点ではまだ残っていたのだ。
その時にはまだ知らない。そこから始まる地獄のような長い堤防道路を・・・。
そこからは堤防の上に作られた道路を進むことになっている。
しかし、現実は厳しかった。
田舎に住んでいると堤防の上を走る車=ほとんどいない
というのが常識だった。30秒に1台くらいは通り過ぎるが、それも普通の乗用車。
それが、この平野ではどうだ。まるで国道であるかのように車が通っている。
しかもトラックがたくさん通る。そうなのだ、ここに来るトラックの元はあの秋葉ダムなのだ。
「秋葉」という字が書いてある。
だんだんとやる気がなくなってくる。
はっきり言って、この辺りのことは良く覚えていないし、
仮に覚えていたとしても特徴がなくて書くこともないだろう。
特徴がないのも当たり前で、周囲に見えるのは、空、車、草、道、工場、だだっ広い川、くらいしかないのだ。
少し走った頃だったと思う。
なんか工事中っぽい橋があるなぁと思って近づいてみると、どうやら第二東名高速らしい。
まあ、いいとこだったので休憩にした。
この時点での時刻は、写真の撮影記録より16時01分。
目的地には17時に着く予定でいたので焦る。
でも焦って事故なんぞ起こしては話にならんので、ここは焦らずゆっくりと行くことにする。
→写真:上流方向1 写真:上流方向2 写真:橋の下
そのうちに浜北大橋についた。
ここで2車線の道路と交差した。
・・・とはいっても、さすが都会。わざわざ平面上で交差しなくてもいいように、立体交差になっている。
この利点はまだあり、その立体交差の道路下で休憩が取れるのだ。
真夏の日差しを防いでくれるのでありがたい。
というわけで、そこで休憩を取った。
この頃から徐々に体力が消えていくのだ。
浜北大橋を過ぎるとまだまだ直線。
それもそのはずで、浜北大橋の時点では直線全体の5分の1程度しか進んでいないのだ。
先は長い。
なんとなーくこいでいるチャリのペダルに堤防に生えている草が当たっていく・・・。
それくらいのことしか覚えがない。
このまま直線が終わらないのではないだろうか、という不安が頭をよぎる。
そういえば、途中に磐田市の看板があったような気がする。
確実に進んでいるという実感がほんの少しだけしてきた。
そのうちにかささぎ大橋に到着した。
これで半分くらいは過ぎた。
長い休憩をとることにした。
ここでの時刻は16時45分。まだ日は高いが、焦燥感が押し寄せてくる。
→写真:上流方向 写真:下流方向
かささぎ大橋を過ぎると、まもなく豊田町(現在は磐田市)の看板が目に入った。
この町は目的地の竜洋町の隣の町だ。
そのうちに東名高速道路の天竜川橋にやってきた。
また下をくぐって先へ進む。
河川敷にサッカー場があり、子供らがたくさんサッカーをしていた。
そこを越えるとすぐに国道1号線にぶつかった。
ここまでくれば後一息だ。
しかし、体力もかなり限界に近づいている。
前ページの佐久間ダム付近でばてていたのに、よくぞここまでもったものだ。
先を見ると、線路が見える。地図で確認すると東海道本線らしい。
体力を振り絞ってそこを目指す。近くに見えるのでやる気が出る。
1kmほどでなんとか東海道本線と交差した。
と、さらに先を何かがものすごいスピードで通っていく。
見るとそれは新幹線だった。のぞみだ。
そう、1kmもないほどの先に東海道新幹線が通っているのだ。
それを目標に頑張ってみる。
1kmなどという距離は普通なら何ともないはずなのに、その時は遠く感じられた。
途中でついに竜洋町に入った!!感動だ。
へぇへぇ言いながらなんとかそこへたどり着いた。
さぁ、もうこれ以上交差するものはない。
そしてこのうざったい堤防の道路ともおさらばだ。
東海道新幹線との交差点より500mほど下ったところで堤防よりそれる。
あらかじめ送ってもらっておいた地図を頼りに、残った力をすべて出し切って宿泊先のN家へ向かう。
久しぶりの曲がり角をいくつか曲がって、ついに到着!!!
インターホンを押すと、誰だか忘れたが、出てきた。
そして快く迎えてくれた。
頼んでおいたとおりに冷たい茶を用意してくれていた。
あの冷たい茶がどれほどうまかったことか。
静岡だからかもしれないが、疲れも一つの理由だろう。
その夜のことはもうほとんど記憶にない。